「静かな退職」って何?
最近、「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉を耳にしたことはありませんか。
一見すると「会社を辞める話?」と思われがちですが、実はちょっと違います。
この言葉が意味するのは、「最低限の仕事はするけれど、それ以上はもうやらない」という働き方。つまり、会社には在籍しているけれど、心はもうそこにない。そんな状態です。
2022年にアメリカのキャリアコーチがSNSでこの言葉を説明する動画を公開したことをきっかけに広まりました。
この記事では、静かな退職とは何か?なぜ増えているのか?そして、会社やマネージャーとしてどう向き合うべきか?そもそも働くとは何なのかを分かりやすく解説していきます。
「静かな退職」ってどんな状態?
静かな退職をしている人は、こんな行動をとる傾向があります。
- 定時で仕事を切り上げる(残業はしない)
- 与えられた業務だけを淡々とこなす
- 昇進・評価にあまり興味がない
- チームへの提案や発言は控えめ
一言でいえば、仕事に対して“ちょうどいい距離感”をとっているように見える状態です。
ただし、その背景には、「これ以上は踏み込みたくない」「期待に応えすぎて疲れた」といった気持ちが隠れていることも多いのです。
なんで今、「静かな退職」が増えてるの?
この現象の背景には、時代の変化があります。特に以下のような理由が大きいです。
● ワークライフバランスを見直す流れ
コロナ禍をきっかけに、「仕事が人生のすべてじゃないよね」という感覚が広がりました。
長時間労働よりも、自分の時間や健康を優先したい。そんな価値観が、静かな退職という行動につながっているのです。
● 頑張っても報われない経験
「誰よりも頑張ったのに評価されなかった」「余計な仕事ばかり押しつけられる」──そんな経験が続くと、人は自然と“期待しないモード”になります。
そして、「もう必要最低限だけでいいか」と思うようになるのです。
● 組織への信頼感の薄れ
Gallup社の調査(2024年)によれば、世界の従業員のうち「仕事に強く関与している」と感じている人はわずか21%。
つまり、多くの人が「やる気全開ではない」状態で働いているということです。
「静かな退職」=悪いこと?
「やる気がない人」と片付けてしまうのは、もったいない考え方です。
静かな退職には、次のような側面があります。
✅ 自己防衛のための選択
燃え尽きやストレスを防ぐために、自分を守る選択肢として距離を置いているケースもあります。
それは決して“怠けている”のではなく、自分を大切にしようとしている姿とも言えるのです。
✅ 働き方の多様性のひとつ
全員が常にフルスロットルで働いているわけではありません。
時には「今は余力で働きたい」というフェーズがあるのも自然なこと。
そんな“静かなモード”を許容できる組織は、むしろしなやかで強いとも言えます。
組織やマネージャーができること
「うちのメンバー、最近静かだな……」と感じたら、次のようなアクションを試してみてください。
● 小さな対話を増やす
毎日の雑談や、1on1の場を活用して、仕事の話だけでなく“気持ち”を聴くことが大切です。
形式ばった面談より、ちょっとした立ち話の方が本音が出やすいこともあります。
● 貢献を「ちゃんと見る」
目立たない仕事、地味だけど必要なタスクにも目を向けて、感謝を伝える。
人は「見られている」と感じると、自然と前向きになります。
● 意味を共有する
自分の仕事が「誰のために役立っているのか」が見えると、働くモチベーションは上がります。
「やらされ感」ではなく、「自分で選んでやっている」という感覚を大事にしたいですね。
「働く」とは、何のため?──静かな退職が問いかけるもの
静かな退職という現象が私たちに投げかけているのは、単に「やる気があるかどうか」ではありません。
それはもっと根源的な、「そもそも、働くって何のため?」という問いです。
これまでは働くこと=生活の糧を得るため、家族を養うため、社会的地位を得るためと思われていたかもしれません。
でも、今はそれだけではなくなっています。自己実現、承認、つながり、成長、貢献、ビジョン。
働く意味が人によって、あるいは時期によっても変わる時代になりました。
だからこそ、誰かが「静かに距離をとる」とき、それを単なる逃避や怠慢と見るのではなく、「働く意味を見直そうとしているサイン」と捉えることもできるのではないでしょうか。
仕事を通して生み出される感謝の循環
本来、働くとは「はたがらくになる」ということなのです。
傍(はた)が楽(らく)になるとは、つまり、自分の周りにいる人たちが楽になるということです。
自分の仕事によって周りの人たちが助かると、そこに感謝が生まれます。
つまり、仕事をすることによって「ありがとう」という感謝が循環するのです。
その感謝の循環の中にいるとき、人は幸せを感じ、自らの存在価値や存在意義も見出せるようになるのです。
そして、その仕事の向こう側には、あなたの仕事のおかげで助かっている人たちがたくさんいます。
その誰かに思いをはせることができたとき、働くことの本当の喜びが感じられるようになります。
静かな退職の向こう側には、「静かな問い」が潜んでいます。
それは、“あなたにとって、働くってなんですか?”という、誰もが立ち止まるべき問いなのかもしれません。
参考リンク:
Gallup, State of the Global Workplace 2024
https://www.gallup.com/workplace/349484/state-of-the-global-workplace.aspx